第12号 哲学クイズの答え

もんだい

philosophy はなぜ「哲学」と訳されたと思いますか?

(教育学習支援部 助教 長岡徹郎)

こたえ

philosophy の翻訳語である「哲学」は、西周 (1829-1897) によって考案されました。西をはじめとする当時の日本の知識人は、江戸時代までの漢学の教養、つまりは儒教や仏教の考え方や概念を手引きとして、西洋の思想文化を理解していきました。西による他の翻訳語としては、意識 (conscious)、理性 (reason)、観念(idea)、真理 (truth)、方法 (method)、実験 (experience)、定義 (definition) などが挙げられます。

西は philosophy を、中国の儒学者である周敦頤が書いた『通書』にある言葉「聖希天 賢希聖 士希賢」を参考にして、「希賢学」(賢者となることを希求する学問)と翻訳し、その後「希哲学」(哲智すなわち明らかな智を希求する学問)と直し、最後に「希」を省略して「哲学」としました。これは、philosophy の由来であるギリシャ語の philosophia が「知恵 (sophia) を愛する (philein)」を意味することからきています。儒教の教養のない現代の私たちには、「哲学」という言葉だけを見ても、どのような学問なのかいまいちイメージしにくいかもしれません。哲学用語が難しい理由には、このような翻訳の歴史が背景にあるのです。

善の研究 書影
西田幾太郎著『善の研究』岩波文庫

現代の私たちの学問は、このように辞書もないところから翻訳語を一から考えていった当時の知識人たちの努力によって支えられています。昔の日本の人々がどのようなことを考えながら、今の日本が形成されていったのか。ご興味があれば、ぜひ西田幾多郎をはじめとする哲学者の本を読んでみてください。西田の最初の著作にして代表作でもある『善の研究』が、手に入りやすいのでおすすめです。