第11号 線虫クイズの答え
もんだい
生物学分野において、種をこえて保存された生命現象の研究に用いられる生き物のことをモデル生物といいます。モデル生物の一つである線虫 Caenorhabditis elegans () は、飼育しやすく、遺伝学の研究に用いることができるという特徴をもちます。以下の選択肢のうち、C. elegans の特徴として知られているものはどれでしょうか。
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- 雌雄同体で、1匹から子孫を増やすことができる。
- 暑さに強く、30℃くらいでも問題なく生育できる。
- 成長すると、雄が雌化する。
(全学共通教育部門 助教 坂口愛沙)
こたえ
答えは1です。
線虫 C. elegans は、土の中に住む微生物で、雌雄同体()と雄がいます。雌雄同体は精子と卵を両方作ることができ、一個体内で自家受精することにより子孫を残します()。一方、雄は精子のみしか作れませんが、尻尾の形に特徴があり、その尻尾を雌雄同体の陰門に差し込むことにより交尾し、子孫を残すことができます。ヒトの性は、性染色体であるY染色体にある遺伝子によって決まることが知られており、XXは女性、XYは男性になりますが、C. elegans の場合はY染色体にあたるものがなく、XX(X染色体を2本持つ)は雌雄同体、XO(X染色体を1本しか持たない)は雄になります。
実験室のインキュベーターでは、通常20℃で飼育され、25℃以上になると、遺伝子変異が起こりやすくなり、減数分裂の際の染色体分配にも異常が起きやすくなります。1匹の雌雄同体(XX)の親(P0)をプレートにおいて20℃で3日間飼育すると、約300の子(F1)を得ることができます。このとき、P0の卵と精子にはいずれもX染色体が分配されるためF1は基本的にすべて雌雄同体(XX)になりますが、稀にX染色体を1本しか持たない雄(XO)が生まれることがあります。25℃で飼育した場合は、減数分裂の際の染色体分配に異常が生じやすくなり、雄が生まれる確率が少し上がります。遺伝子変異によってXX個体もXO個体も雌化(feminization)することはありますが、成長過程や老化によって性が変わることは知られていません。
C. elegans を用いた研究ではこれらの特徴を活かし、雌雄同体と雄をかけ合わせることにより遺伝学的な手法で解析を進められるだけでなく、雌雄同体のみを植え継ぐことによりほぼ同一の遺伝情報を保った状態で世代をこえた変化を見ることができます()。C. elegans の遺伝子の中には、ヒトなど他種の生物の遺伝子と同じ起源や機能をもつと考えられる遺伝子もあり、モデル生物として優れた特徴をもつ C. elegans を用いた研究の成果が、さまざまな生命現象やヒトの疾患のメカニズムの解明につながることも期待できます。
Further Readings
- 遺伝学電子博物館(国立遺伝学研究所) https://www.nig.ac.jp/museum/livingthing11.html
- ライフサイエンス新着論文レビュー https://first.lifesciencedb.jp/archives/11913 DOI: 10.7875/first.author.2015.131
References
[1] Sato M, Grant BD, et al. (2008) Rab11 is required for synchronous secretion of chondroitin proteoglycans after fertilization in Caenorhabditis elegans. J. Cell Sci., 121, 3177–3186
[2] Sakaguchi A, Sato M, et al. (2015) REI-1 is a guanine nucleotide exchange factor regulating RAB-11 localization and function in C. elegans embryos. Dev. Cell, 35, 211–221
[3] Ahmed S, Hodgkin J (2000) MRT-2 checkpoint protein is required for germline immortality and telomere replication in C. elegans. Nature, 403(6766), 159–164.
[4] Sakaguchi A, Sarkies P, et al. (2014) Caenorhabditis elegans RSD-2 and RSD-6 promote germ cell immortality by maintaining small interfering RNA populations. PNAS, 111(41), E4323–E4331