第11号 感染症クイズの答え

もんだい

人類の歴史は、感染症との闘いの歴史であると言っても過言ではありませんが、今、世界で最も根絶可能な感染症は何だか、ご存知でしょうか。

(全学共通教育部門 准教授 金森サヤ子)

こたえ

これまで人類によって根絶された唯一の感染症は、1980年に根絶された天然痘です。そして、今、最も根絶可能な感染症とされているのが、ポリオという病気です。

ポリオという病気のことや、なぜ、ポリオが今、最も根絶可能な感染症なのか、ということは講義でお話しするとして、ここではポリオ根絶までの歴史をざっとお話ししたいと思います。

最近では、多くの皆さんが、持続可能な開発目標(SDGs)という言葉を聞いたことがあるかと思いますが、これと同様に、1988年に、2000年までにポリオを根絶するという「世界ポリオ根絶推進活動(GPEI)」という国際的なポリオ根絶のためのイニシアティブが発足しました。これにより、国際的なポリオ根絶の取組が強化された結果、1988年当時には年間35万人のポリオ患者が発生していましたが、現在感染者数は1988年当時に比較して99%削減され、根絶は実現可能な目標として捉えられるようになりました。今、ポリオの野生のウイルスが流行している国は、アフガニスタンとパキスタンの2カ国に限定されており、ポリオ根絶は最終段階を迎えています()。


ポリオの症例数は過去34年間で99%減少した

ポリオの症例数は過去34年間で99%減少した

日本でも1960年にはポリオ患者数が5,000人を超える大流行がありましたが、ポリオワクチンの導入によって流行は抑えられ、1980年の一例を最後に、現在まで野生のポリオウイルスによる新たな患者は出ていません。

ではなぜ、アフガニスタンとパキスタンでは、今でもポリオウイルスが流行しているのでしょうか。それは、両国が何れも紛争や貧困を抱えるなどの政治・社会的な理由から、予防接種の実施が困難であったり、国際社会のポリオへの関心や資金量の低下によって、ポリオ根絶に向けた足踏み状態が続いているためです。

この2カ国で野生のポリオウイルスが流行し続けている限り、日本を含む世界各国でもポリオの予防接種をし続ける必要があります。実際、日本では単独の不活化ポリオワクチンの費用だけでも年間約233億円にのぼると試算されており、これらの多くは国民の税金から支出されています(注1)。

新型コロナウイルス感染症が世界で流行し出して、4年目を迎えました。ポリオ根絶の歴史から、私たちがウィズ・コロナ時代を生き抜くヒントが多くあるような気がしてなりません。

注1:
厚生労働省結核感染症課予防接種室、2013年4月。接種費用は原則市町村が負担、自治体によって差異有り。