教えて先生!クイズの答えは…
もんだい
写真に示すように、顔の前で両手指の腹を合わせてから、両中指を折り曲げて第2関節部をしっかり付けて、指背の橋になる部分が直線になるようにして下さい。この状態で、親指、人差し指、小指を順に離してみて下さい。…はい、では薬指も離してみましょう。どうですか?横にずらすのはダメですよ?…難しいですね。これは一般的に困難な構造になっています。しかし、稀に薬指を離せる(よく動かせる)人がいます。ということは、もともとそういう構造なのか、後からそう変わったのか、はて、さて?
こたえ
図を見ていただきましょう(監訳 坂井建雄『プロメテウス 解剖学アトラス コンパクト版』医学書院に小松加筆;クリックで拡大)。まず、指を伸ばす(伸展)筋は前腕背側部にあります。特に第2~5指を動かしているのは、肘から手背(手の甲)を通って指骨に付着する、(総)指伸筋が関係しています。そしてこれら4指の腱の間は腱組織で繋がれており(腱間結合)、互いに独立した動きを制限した構造になっています。ここで、中指(第3指)をしっかり付けるということは、指を屈曲することによって、腱が指先側に引張された状態になるので、両隣の薬指(第4指)と人差し指(第2指)の腱もこの腱間結合を介して引張の影響を受けることになります。したがって、薬指を伸展させるために筋を収縮させて肘側に動かそうとしても腱間結合の突っ張りで薬指の腱がロック状態になっていることになります。これが薬指を離せない(動かせない)理由になります。
となれば、薬指を離すことができる人は、腱間結合部が一般とは異なっていることが考えられます。ちなみに、親指(第1指)は別格で、独自の伸筋を持っており、また、人差指、小指(第5指)も独立した伸展筋を持っているので、(総)指伸筋の腱間結合の制限を受けるにせよ、離すことが可能です。
上述の(総)指伸筋の形態には多くのバリエーションが存在するとあります(日本人のからだ 解剖学的変異の考察、佐藤達夫ら、2000)。それは、「(総)指伸筋の各腱の間には、腱間結合が見られる。2腱を繋ぐ横結合、1腱の分束が他腱に結合する移行結合、発達の悪い膜様結合の3つの結合型に分けられ、これが各腱の間に複合された形で現れる。第3-5指の指伸腱の間には横結合あるいは移行結合が多く見られるが、第2指と第3指の間には膜様結合が多く、このことは第2指の動きの良さと関連しているといわれる。また、第5指への腱が欠損する場合、第4指への腱と小指伸筋の腱の間に腱間結合が見られる。指伸筋より筋束が分離し、母指へ向かう過剰腱となる例もある。」とあります。
薬指を離す(伸展)ことができる場合、腱ではなく膜様結合になっている、あるいは結合角度の度合い、さらにはもともと存在していない、などが考えられます。全学教育推進機構に薬指を明確に離せる素敵な女性教職員方がおられます。訊くと、幼少の頃からピアノを習っていたとのことです。そして中指に力を入れながら薬指を動かす練習が必須であったといいます。なるほど、ピアノ演奏には一般的な構造では間に合わないものがあり、幼児からの成長期に何十万回、何百万回という反復練習によって、構造適応を試み、「ならでは」の音色を奏でることを可能にさせるということでしょうか。また、指の巧みさといえば、ギターのコードを押さえる側の手も同様のことがあるかもしれません。他にも指先の器用なマジシャンなどは、また異なる構造的特徴を有しているのでしょうか。「構造が機能をつくり、機能が構造をつくる」といわれる所以でしょうか。