受講生の声: 舞さつきさん、安保夏絵さん (文化と植民地主義)

舞さつき(写真左)、安保夏絵(写真右)
言語文化研究科博士後期課程言語文化専攻(舞さん:D2、安保さん:D1)

文化と植民地主義

研究テーマを深め、受講生からよい刺激を受け、尊敬する先生に出会えた

――主専攻の研究内容について教えてください。

安保: アメリカ文学について取り組んでいます。学部生の頃は、黒人女性のセクシュアリティをテーマに、モダニズムと呼ばれている1920年代からの女性の人種差別や権利をメインとしていました。修士課程の時に路線変更をし、今は1980年代から現代の女性に着目しています。分野としては、文学よりも少し社会学寄りではないかと思います。小説で社会がどう表現されていて、社会が小説にどう影響を与えているのか、そういう相互作用の要素があるのかを分析したいと考えています。作家ではアメリカでポストモダン文学の巨匠と呼ばれているトマス・ピンチョンの研究をしています。アメリカの現代文学では女性のセクシュアリティに関するテーマはホットであると思います。グローバリゼーションとからめると、今は人種や性差と関係なくいろいろ絡み合っている問題であると思います。このプログラムも女性に着目している部分があります。

舞: 私はポストコロニアル文学の研究をしています。作家はパトリック・ラフカディオ・ハーン(小泉八雲)で、彼が日本に来る前に西インド諸島にいた時期をメインとしています。オリジナルの小説は人生において2つしか書いておらず、それも来日以前 に書いています。あとは再話物語(民話を書き直している)や、フランスの植民地だったマルティニークで紀行文など書いている人です。小泉八雲が日本にいたころの研究はよくありますが、それまでの時期についてはあまり知られていませんでした。近年、グローバリゼーションで注目されるようになってきています。ギリシャの生まれた地で展示会が行われたり、シンポジウムが行われていることもあるそうです。世界のゆかりの地でこういう動きがあります。

――日本のみならず世界でグローバリゼーションという言葉はよくつかわれていますが、舞さんは、欧米やヨーロッパの人々はその背景にあることについて興味を持っていると思いますか?

舞: 国際シンポジウムなどを通して、小泉八雲について広める活動は世界でおこなわれていることに対して、その研究者たちは足を運んでいると思いますが、そうでない人たちはどうだろうかと私も思っています。日本では人気があるので、世界で展示会など取り上げられていることを、世界の人たちが関心を持っているのかは疑問に思っています。

――安保さんにお聞きしますが、グローバリゼーションというのは文学の世界では大きなテーマになっているのですか?

安保: 私は、文学とは別の研究になるイメージがあります。今は、文学ではグローバリゼーションということも重要視していますが、古くなると帝国主義などに移行しているように思います。文学は理論や批評を取り入れ、グローバリゼーションとは国際情勢などリアルタイムなことについての研究として取り組んでいるイメージです。

――お二人は、他研究科の授業を受講しにいくことはありますか?

安保: 言語社会専攻(以下:言社)の授業を受講しに箕面キャンパスへ行っていました。他キャンパスに横断的に触れることができるというのはいい環境だと思います。

舞: 私は豊中キャンパスで授業はすべて完結していました。

――副専攻/高度副プログラムの受講動機について教えてください。

舞: 私は、自分の研究と非常に密接している内容だったことが受講動機になります。副プロの説明会で冊子を見て、これは取りたいと思いました。それに、指導教員である先生方の授業もこのプログラムの構成科目に多く入っていて、受講しようと思っていた科目のほとんどがこのプログラムに入っていました。自分の興味とこのプログラムがぴったりでした。 授業内容は、例えば、現代超域文化論の場合、一つの文献を皆で読んで発表の担当が回ってくるという方法でしたし、言語文化変容論だと、先生がマオリ語を話せるので、現地の戯曲やマオリ語を紹介してもらったり、自己紹介の仕方を学んだりもしました。マオリの歴史なども学びました。

マスターの時にいろんな授業をとって専門以外のことを学び、ドクターでは自分の専門科目のみになっているような状況です。授業の内容自体、先生方が研究していることに近い授業が多いように思います。

安保: 私はアメリカ現代文学を研究する上で、知識の1つとしてポストコロニアルも勉強しておきたいと思って受け始めました。このプログラムを受講することで、今までとは違った視点からアメリカについて分析するという意味ではとても勉強になりました。言語文化研究科にポストモダン文学を研究する先生が少なくて、指導教官である木村先生から、文学の研究者が多いということで、ある程度アメリカを知るという意味でも受講しておくとよいと紹介して頂いたことがきっかけです。ポストコロニアル文学という分野もあるので、知っておくとよいと言われました。木村先生もポストコロニアルを専門とされていますが、最近はグローバリゼーションや経済の方にも興味を持たれています。

――副専攻/高度副プログラムを受講しての感想をお聞かせください。

舞: マスターの時に受講していたのですが、そのころはどの授業も4~5人でした。同じ授業を今また受講しているのですが、徐々に増えてきて今は多いので10名くらいはいます。特に言社の学生などもいて、いい刺激を受けています。言語文化専攻(以下:言文)の学生はのんびりしている雰囲気がありますが、言社の学生はとても勉強熱心な雰囲気があります。授業後に先生に質問も行っていて、そういう気迫ある姿を見たり、異分野の学生も少しずつ受講しに来るようになってきたことで、自分も勉強していかないとという意欲を奮い立たされて、(プログラム受講)当時よりも今の方が自分自身熱心に勉強しているように思います。

安保:私も同じく、異分野専攻の学生と受講することで授業に対する私自身の姿勢が変わりました。学生の中には先生からのクリティカルな批判を受けながら自分の研究に向き合っている人もいると思うので、自分がマイペースに研究していたこともあり、そういう姿に刺激を受けました。また、私がポストコロニアルを専門に研究していないため、それを専門とする人の意見を聞けることで、私の中でグローバリゼーションや政治に対する考え方にある違いが見えてきて、勉強になっています。

ポストコロニアルについては、文学の大きな理論の中では『ポストコロニアル理論』というものが成立しています。私は、植民地にされる側とする側という二項対立であるものと見ていたのですが、実はすごく複雑であることがわかって、だから1980年代以降から盛り上がっていて今も残っているのかなと思います。単純化してみていたものがそうではなかったことで価値観を覆されたような状態です。文学作品で複雑に描かれているものについて、ポストコロニアルを用いて批評として書いているものもあり、そういう複雑なものに出会えたということがとても勉強になると思っています。 ―お二人は将来研究者を目指しているのですか?

舞・安保: はい。

――専門分野に比較的近い内容のプログラムであったということですが、副専攻/高度副プログラムの受講により、将来に何か良い影響はありそうですか?

舞: 現時点では、私の場合は授業のほとんどが研究に使えています。授業の本をそのままでも使うことができます。授業形式として多いのが、本の内容をレジュメとしてまとめていく方法です。そのまとめ担当が順番に回ってくるので、与えられた箇所をレジュメにして授業当日発表します。そのレジュメを毎回授業でもらえるので、それを残しておけば研究材料として見直すことに役立っています。将来的な部分では今はまだ具体的にはわかりません。

安保:私はこのプログラムを受けたことによるメリットが2つありました。一つ目は、研究者としてのメリットです。自分の専攻テーマ以外を学ぶことで、いろいろなものと結びつける思考力を身につけられ、研究に活かすことができるように思っています。二つ目は、教育者としてです。学生から質問を受けた時にいろいろなことを結び付けて答えてあげられる教育者を目指したいと思えるようになりました。

――『いろいろなことを結び付けて考える』ということの良さを具体的に教えてください。

安保: 文学作品の分析手法に似ているのですが、一見関係性のない表現を結び付けて自分の言いたい主張にすることで一つの議論を作り上げるという方法です。こうすることで客観的に自分の研究テーマを見ることができるように感じます。

――『副専攻/高度副プログラム』のような制度は、全国的に見るとまだ数少ない制度です。大阪大学に入学するとこういう制度により、学生は選択肢を多く与えられ、視野を広げるチャンスがありますが、この制度はよいと感じますか?

舞: はい。よい制度だと思っています。しかし、せっかくの視野を広げるチャンスではあるものの、実際は結局自分の視野(専門)に関わる授業しか受講できていない現状です。案内冊子を見れば専門外も面白そうだなと思ってはいるのですが、現実として両方に取り組むということは両立が大変そうだなと思っています。

――主専攻との両立で工夫したことはありましたか?

舞: 主専攻とこのプログラムはほとんど一緒でしたので、特に大変だったことはありませんでした。個人的には、このプログラムの中に他キャンパスや他研究科の授業があってもよかったように思っています。 安保:M1からM2のころは、勉強だと思って必死にしていたので工夫を意識的にはしていませんでした。自分であえて忙しくしていたようにも思っています。ただ、忙しくなりすぎてしまわないように、自分の中で優先順位は作るようにしていたのかもしれません。自分の研究をメインにする主軸は持っておいて、余裕のあるときに副プロの勉強をするというバランスは無意識にとるようにしていたかもしれないです。

――この制度では受講修了後、認定証が発行されますが、受け取ってみていかがでしたか?

安保: 達成感があるなと感じました。大学で学んできた証拠にもなるし、履歴書にも書けるということで、こういう勉強をしてきたとアピールできる証明にもなります。

――副専攻/高度副プログラムを受講開始する際のポイント・注意点はありますか?

安保: 授業のレベル・水準がどのレベルなのかということがわかると選択しやすいと思います。自分が入ることで授業の水準を下げてしまうのではないかと思ってしまうこともあると思うので。1回目の授業に出てみて、自分の知識レベルに見合った授業であるかを確認してみるのがよいと思います。シラバスで、例えば「入門」など書いてあると敷居が低いように感じるので受けやすいと思います。

舞:この『文化と植民地主義』の構成科目名自体が難しくて、何をするのかわかりにくいという印象になると思います。なので、初回の授業に来てみるのが一番いいと思います。

――このプログラムはどういう学生に向いていると思いますか?

安保: この授業を受講している学生は、文学をしている学生、教育学を専攻している学生が中心であるように思います。あと、中国からの留学生も多いので、他の国のことを勉強している学生にとって留学生から話を聞く機会が持てるのでよいのではないかと思います。メディアから得られる情報よりは同じ大学で学ぶ者同士ということで身近な存在であると思うし、ネットなどではなく生の声を聞けることはよいと思います。

――最後にプログラム受講を考えている人へメッセージをお願いします。

舞: このプログラムの魅力は一言で言うと、自分の知識が深まるということではないかと思います。最近感じるのは、他専攻の学生からいい刺激を受けていると思っています。ポストコロニアルの面白さは、昔の古典文学を別の視点から見て言い換えていたりする文学である点です。当たり前と思っていたことが違う切り口から見ることができ、するとこういう視点があったと気づくことができます。

安保: 素晴らしい研究者である先生から学べること自体が素敵なプログラムだと思っています。自分の疑問に対してその場ですぐ解決してくれるし、自分の考えを深めさせる手助けをしてくれる先生方が素晴らしいと思います。その中で新しい観点を知ることもできます。先生方を私は研究者としてとても尊敬しています。難しいことをわかりやすく教えてくれるので、目標となる研究者が目の前にいると思うととても素晴らしいことだと思います。

――ありがとうございました。

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